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5月31日(金)DPI全国集会in松山 全体会報告
「来たぞ見直し!障害者権利条約の完全実施へ国内法のバージョンアップを!~障害者基本法改正から障害者差別解消法見直しへ~」

2019年07月02日 イベント障害者権利条約の完全実施


5月31日(金)第35回DPI全国集会in松山で開催した全体会は、パラレルレポートに対する取り組み、SDGsと障害者権利条約について、差別解消法3年後の見直しに向けた取り組みなど、盛り沢山な内容で開催しました。

白井誠一朗(DPI事務局次長)が報告を書きましたので、是非ご覧ください。

全体会プログラム

「来たぞ見直し!障害者権利条約の完全実施へ国内法のバージョンアップを!~障害者基本法改正から障害者差別解消法見直しへ~」

■第一部
①「JDFパラレルレポートの概要と建設的対話への流れ」
尾上 浩二(DPI日本会議副議長、内閣府障害者施策アドバイザー、JDFパラレポ特別委員)

②「SDGs(持続的開発目標)とCRPD(障害者権利条約)-ヨーロッパの視点から」※ビデオ出演
ジャンルック・サイモン(DPIヨーロッパ議長、DPIユナイテッド事務局長)

■第二部 障害者差別解消法3年後の見直しへ
◯報告:障害者差別解消法PTの取り組み
佐藤 聡(DPI日本会議事務局長)

◯シンポジウム:差別解消法の見直しの論点
シンポジスト:
・阿部 一彦(日本障害フォーラム代表・日本身体障害者団体連合会会長)
・川島 聡(岡山理科大学准教授)
・辻川 圭乃(弁護士)
・高橋 信行(全国盲ろう者団体連絡協議会会長、えひめ盲ろう者友の会理事長)
コーディネーター  平野みどり(DPI日本会議議長)


開催経緯、分科会報告、今後に向けて

■全体会開催の経緯

2016年に施行された障害者差別解消法(以下 差別解消法)は今年で3年が経過し、内閣府障害者政策委員会で一回目の見直しに向けた議論が進められています。

DPI日本会議では、差別解消法が施行されて差別はなくなったのか、どこに不十分な点があるのか、運用実態を把握し、法律の見直しにつなげていくために「差別解消法プロジェクト」を立ち上げ、事例の収集、提案書の作成、タウンミーティング、ロビー活動等に取り組んでいます。

また、2020年に予定されている障害者権利条約の日本の建設的対話(審査)に向けて、日本障害フォーラム(以下JDF)では条約の審査に向けて昨年からパラレルレポート作成に取り組んできました。

今年度の全体会ではこうした一連の情勢を踏まえ、障害者権利条約の完全実施のための建設的対話や差別解消法の見直しに向けた取り組みについて共有し、法律のバージョンアップに欠かせない差別事例の収集や法律の実効性を強化していく上での重要となる論点を深めるための報告やパネルディスカッション等を行いました。

■全体会で報告、議論したこと

尾上

第一部では副議長の尾上からJDFで取り組んできたパラレルレポート作成の取り組み経過と、完成したパラレルレポートの概要について報告がありました。

日本は2014年に権利条約を批准し、2年後の2016年には条約の実施状況について政府が国連に報告をしました。今後は今年9月に障害者権利委員会の日本政府向けの事前質問事項が検討されます。JDFではこの9月の事前質問事項の検討に間に合うようにパラレルレポートの作成をしました。この事前質問事項の検討を受け、来春か夏に日本の審査が行なわれる予定となっています。

このJDFのパラレルレポートは1年間の準備会を経て、特別委員会を設置しさらに1年、合計2年間かけて作成されたものです。特別委員会の委員はJDF構成団体から1~3名ずつで構成され、代表がJDF代表の阿部一彦さん、事務局長がDPI事務局長の佐藤が務めています。国連審査と勧告に役立て、条約実施と施策の向上に資することがパラレルレポート目的です。

さらに、国連審査はどんなものか確認のための傍聴活動もJDFとして進めてきました。2014年にはニュージーランド、2017年にはカナダへ行って審査の様子を傍聴してきました。今年春も当事者や関係者を派遣し、フィンランドの審査を傍聴しました。各国からJDFのような障害者団体と意見交換をしたり、委員と話す場を傍聴したりしました。

作成したパラレルレポートは権利条約で審査対象となる第1~33条の条文毎に①日本の現状や問題点を課題としてまとめたもの、②こういう質問をしてほしいという事前質問事項案、③勧告案、という3つの柱で起草しています。1年間、各団体からの意見集約版をもとに課題を整理し、事例を盛り込んで事前質問事項案と勧告案を作成しました。

また、条文毎の課題に入る前に条文を横断した課題として①医学モデルから社会モデル/人権モデルへ障害の認識の転換、②政策・計画決定への障害者団体の参加、③統計・データの確保と活用、④監視体制の強化・独立した人権救済制度の設立、⑤障害者権利条約に関する意識向上、の5つを挙げています。

この後のシンポジウムにかかわる5条のパラレルレポートをみると、課題の指摘、事前質問事項案、勧告案が書かれています。勧告案では「差別の定義を盛り込む」、「差別を盛り込む(教育における差別)」、「紛争解決の仕組みや相談窓口の創設」、「司法府と立法府の合理的配慮のための財政措置」、「生命の選別の広がり」など、全部で7つの勧告案を提案しています。今年の夏、事前質問事項の検討に向けて傍聴団を派遣し、国連の委員とのブリーフィングやロビー活動をし、パラレルレポートの内容を障害者権利委員会の人に伝えていきたいと考えています。

障害者制度改革が2010年から2014年までありましたが、障害者権利条約を批准してからは条約のレベルに合ったものにバージョンアップすることが必要です。障害者基本法、虐待防止法の見直しの期間を過ぎ、総合支援法にも課題があります。また、電話リレーサービスなど情報バリアフリーなどいろんな課題が浮かび上がります。

障害者権利条約を生かすも殺すも私たち次第です。基本理念である「私たち抜きに私たちのことを決めないで」を忘れることなく力を合わせて取り組みたいです。

続いて、DPIヨーロッパ議長のジャンルック・サイモン氏より、障害者権利条約とSDGsとの関わりについてのビデオメッセージが流されました。

後半の第二部では、「障害者差別解消法3年後の見直しへ」をテーマにDPI事務局長の佐藤よりDPIで取り組んでいる「差別解消法プロジェクト」の報告と法律の見直しに向けた差別事例収集の取り組みへの協力呼びかけが行われました。その場で事例を書いた人から「休憩をとってください」と呼びかけられ、参加者一同真剣な眼差しで事例を書いていました。

その後、差別解消法見直しの論点についてシンポジウム形式でJDF代表の阿部一彦さん、岡山理科大学准教授の川島聡さん、弁護士の辻川圭乃さん、全国盲ろう者団体連絡協議会会長の高橋信行さんにご登壇していただいて議論を深めました。

阿部さん、川島さん

阿部さんからは差別解消法の見直しにあたってパラレルレポートを活用していくことの重要性と自治体における条例づくりの必要性が指摘されました。また、法律を充実させるだけでなく、しっかりと浸透させていくためにそれぞれの地域で、障害をもつ当事者ひとりひとりが声を上げていくことが大切であると発言しました。そうした障害をもった人の取り組みにより、だれもが暮らしやすい地域社会になる、と締めくくりました。

川島さんからは正当な理由のもとでの差別を一切認めないイギリスの平等法との比較を通じて、現行法では不当な差別的取り扱いの正当化を認めている点を問題視する意見が出されました。また、障害の定義に関しては障害がある人、経歴がある人も、障害の定義に含めるべきであるとし、社会モデルは法規範自体が障壁になっていることもある、という視点から障害の定義が狭いので障害がない(とされている)人が不利益をもっていると考えて有効に活用することが必要であるとしました。

辻川さん、高橋さん

弁護士の辻川さんは、差別解消法の対象が行政機関と事業者の2つだけでなく、司法や立法、個人も対象に含めるべきとしました。また、定義について、対象となる障害者の範囲を過去に機能障害を有していた人や、将来的に障害を有するかもしれない人まで含まれるような定義の拡大を図ること。差別の定義に間接差別も含まれるような規定を明記すべきとしました。そのほか、各則の創設、民間事業者における合理的配慮の提供義務化と促進措置としての助成制度創設、合理的配慮提供に意思の表明を要件にしないこと、立証責任の転換などを見直しのポイントとして挙げられました。

高橋さんからは盲導犬ユーザーの立場から日常的に入店拒否や乗車拒否などの差別を受けている経験をもとに、補助犬法や差別解消法では罰則がない、または弱く、差別解消の実効性が十分担保されていないという意見がありました。現状では、タクシーの乗車拒否では道路運送法、ホテルの宿泊拒否なら旅館営業法の処分を受けることになり、一般人が対象となる法律に比べて障害者が対象となる差別解消法の罰則は甘いのではないかという問題提起もされ、このような現状を踏まえて差別解消法の見直しを進める必要があるとしました。

その後、再び各シンポジストから追加、補足意見があり、当事者自身が声を上げていくことの重要性、差別解消法の見直しにあたっては諸外国の経験が参考になること、社会的障壁の除去のための調整機能として紛争解決の仕組み作ること、合理的配慮の義務化と建設的対話を通じた合理的配慮の質の向上など、差別解消法3年目の見直しに向けた様々な意見が出されました。

■今後に向けて

障害者差別解消法の見直しに当たっては私たち障害をもつ人たちが普段の生活でどんな差別を受けているか、その生の実態を可視化することがなによりも重要です。また、解消法が施行されて差別を受けた時に相談できる窓口ができましたが、実際にどれだけ解決が図られたのでしょうか。この3年間の実績や運用の実態についても実際に相談窓口を利用した当事者の体験談が欠かせません。

収集した差別事例を分析し、そこから見えてきた差別解消法の問題点を整理し、差別の定義の明確化や、民間事業者への合理的配慮の義務化、紛争解決の仕組みづくり、各則の明記といった具体的な政策提言やロビー活動等を通じて法律改正につなげていくことが重要です。

また、こうした国内法のバージョンアップを図るためにも国際的なモニタリングの仕組みである国連の障害者権利委員会による条約の審査に向けた取り組みは非常に重要です。

パラレルレポートをもとに日本の実態を伝え、差別解消法だけでなく障害者基本法や障害者虐待防止法といった他の法律も含め、国内法を条約の水準に引き上げていくための効果的な総括所見をいかに引き出せるか、2020年以降も見据えて取り組んでいくことが必要です。

白井 誠一朗(DPI日本会議事務局次長)

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